イン・ザ・メガチャーチ

一般小説

 性別的な役割や性別の捉え方、働き方、結婚観など、今までの価値観が令和になって崩れていき自由な世の中になった。しかし自由だからこそ、何を指針にすればよいかわからず漫然と生きて、心に不安の穴が開き徐々に大きくなっていく。

 何をすべきかも何をしたいかも判然としないまま、不安の穴は徐々に大きくなり、自分で埋める術も見つからない。

 そんな時、救ってくれるのが「推し」である。

 「推し」のおかげで不安の穴は埋まり、何をすべきか、何をしたいかの生きる目的も見つかる。「推し」は人生を変えた存在であり、人によっては神のように崇め、「推し」の神棚を作る。

 グッズを買ったり、イベントに参加したりするなどの推し活をする人の中には、自分の持ちうる財産や時間をなりふり構わず使う層も存在する。カルト宗教に騙されているのではないかと思えるくらい狂気的な存在である。

 本作では、推し活に全てを注ぐ人がどんな人で、どういう人がハマりやすいか、どんな手段を取るのか、また、運営側がどのように操作しているのか、推し活の実態を垣間見れる。その他にも令和の時代で顕在化した問題についても紹介している、まさに令和の社会風刺本である。

推し活の分析

オタクの行動力の凄まじさがわかる

☑推し活をしている人

☑令和の社会問題に興味がある人!

☑最近の若者についていけない人!

 SNSが発達した現代では情報が瞬時に広まるため、様々な価値観が乱立している。価値観を否定する言葉を発すれば叩かれるから、多様性を受け入れる空気が作られる。みんなが自分らしく生きられるように、と価値観に名前が付けられ、当てはめられていく。他人が作った価値観を勝手に押し付けられて理解される生きづらい世の中になった。

 澄香は幼いころから洋楽や洋画が好きで、自分の世界観を持っている女の子だった。周囲で流行しているものには興味を持たず、むしろ流行に流されることを嫌悪していた。

 しかし大学に入学してから勉強が思うようにいかず、周囲に馬鹿にされないように話を合わせたり顔色を窺ったりするばかりで、澄香は自分自身を見失ってしまった。

 自分の容姿や性格の悩み、同級生の勝手なお節介、失恋、仲間の輪から外されたことなど様々な気疲れが溜まった中で男性アイドルグループの道哉の動画に出会い、信徒になる。

 澄香が道哉の推し活に沼っていく瞬間が臨場感たっぷりで描写されている。この場面は本当に夢中にさせられ、作者の文章力・情報を出す順番・タイミング、すべての技量によって視野狭窄にさせられた。

 運営側の手法であるチャーチマーケティングについても物語を通して自然に説明されており、澄香が沼ったことに感情的な理由と理論的な理由付けがされており、納得感のある読み味だった。運営側に推し活とは無縁の久保田を登場させたことで、推し活に詳しくない読者にとっても読みやすい作品になっている。

 久保田は中高年の男性(おじさん)の孤独についても代弁している。男性と女性の性質についての違いから、年を重ねるごとに男性は友人が少なくなっていき、毎日が虚しくなっていく。久保田はその典型例である。コンカフェ・ガルバ・キャバクラにおじさんがハマるのは、孤独な毎日の中で可愛い女の子が自分と楽しく話してくれるのが幸福なんだろうな、と考えるようになった。

 最後まで物語を読んで、やっぱり澄香の将来が気になる。予想は30代40代になっても独身で低賃金で働く女性。生きてきてこれまで特別悪いことをしたわけでも、怠けてきたわけでもなく、毎日必死に働いても生活はギリギリ。国が女性の活躍を促し、結婚しない選択も世間に広まっているものの、現実は厳しい。澄香はままならない現実を自分ではなく国やもっと大きな組織のせいにし始める。りんファミの2人みたいになると思う。澄香はすみちゃんを昔の自分と評し、すみちゃんも澄香を昔の自分と評したのは暗示ではないか。

★★★★★★★★★☆ 9/10

推し活について非常にわかりやすく面白く書かれていて、満足度の高い1冊だった。新たな発見がたくさんできた。

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