織田ブリュンヒルド信長は天下のナナメ上を征く

ラノベ

 室町時代末期。南蛮から銃や宗教が伝来し始めたころ、少女たちの髪と瞳の色が変化し、魔法に目覚める現象が起きた。

 彼女たちは戦では一騎当千の力を振るい、開墾や土木工事でも革命をもたらす存在となる。やがて人々は彼女たちを「魔姫那マキナ」と呼んだ。

 業火や地割れ、稲妻すら操る魔姫那。その強大な力を正しく使うために魔法を指南しているのが夜半である。織田信長に仕えたのち、彼は各地を巡り歩いていた。

 信長の死から二年。久方ぶりに清州を訪れ、主君を悼んでいた夜半の前に飛び込んできたのは――

「女の子は全員あなたのペット! 流行りのコンセプトカフェだワン!」

 なぜかコンカフェの客引きだった。女性が苦手な夜半が困惑していると、一人の美少女が割って入る。

「私の名前はブリュンヒルド。人々に笑顔を届ける『愛踊アイドル』です。これから私の雷舞ライブが始まりますよ」

 独創的な歌詞を流麗な旋律に乗せて歌い上げるブリュンヒルド。観客は熱狂し、夜半も思わず聞き入ってしまう。

 だが雷舞の終了直後、収益を巡って騒ぎが起きる。横取りを目論む輩が現れたのだ。

「仕事柄、魔法で人に迷惑をかける連中は放っておけない。それに……この娘には借りがある」

 夜半は仲裁に入るが、そこで思わぬ事実が明かされる。

「横取りではないのだわ! そこのうつけ姫が借金を返さないから、アガリを押さえに来ただけなのだわ!」

 至極まっとうな主張に、ブリュンヒルドは言い返せず気まずそうに俯く。
 結局、夜半は助けられた礼と雷舞代を兼ねて借金を肩代わりすることに。取りっぱぐれを防ぐため、ブリュンヒルドを助手として旅に同行させるのだった。

下ネタ、パロディ、ギャグ満載の振り切れた作品

乱世にふさわしい騒がしく華やかなヒロイン

Amazon.co.jp: 織田ブリュンヒルド信長は天下のナナメ上を征く (電撃文庫) : 五月雨 きょうすけ, くろでこ: 本
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☑古き良きぶっ飛んだコメディが好き!

☑歴史IFものが好き!

☑主人公を振り回しまくるヒロインが好き!

 ブリュンヒルドが常にバカ騒ぎしているので、とにかく退屈しない。どこへ行ってもトラブルを起こすトラブルメーカーでありながら、同時に場の空気を掌握するムードメーカーでもある。そのブリュンヒルドの面倒を見ているのが夜半だ。
 二人のボケとツッコミの応酬は軽妙で、特に夜半の不憫さが面白さに拍車をかけている。ブリュンヒルドが何か言えば夜半が即座にツッコミ、さらにそのツッコミを拾ってまたボケ倒す。まさにボケとツッコミの永久機関が完成している。

 この二人だけでも十分に強烈だが、ブリュンヒルドのイエスマン・日吉や、魔法を使うたびに全裸になる井伊直虎など、個性の塊のようなキャラクターが次々と登場する。物語が進むほど騒がしさは増し、乱世というより“騒世”と呼びたくなる勢いだ。

 ただ、本作は単なるドタバタでは終わらない。笑いだけでなく、「上手い」と唸らされる台詞や文章が随所にある。
 米をこよなく愛する長秀との会話では、あらゆる表現が米に絡められていて、内容は馬鹿馬鹿しいのに言葉選びは妙に緻密だ。一粒一粒選り分けるように台詞を組み立てている作者のセンスに感心した。※「今宵は布団の上で田植えに励まれるか!」がお気に入り。

 ここまで読むと、ギャグ全振りのエンタメ作品に思えるかもしれない。しかし、芯にはきちんと熱がある。


 魔法の正しい使い方を広めたい、魔姫那が戦に利用されない世界を作りたい――そんな夜半の目標と、それに向き合う姿勢は確かに胸を打つ。夜半の意志が現実味を帯びるのが、信長との出会いだ。

 乱世を「勝った者がアガリを総取りする博打の賭場」と語り、自らが豪運と才を持つ賭場荒らしとなって全員を賭けから降ろす、と宣言する信長。その壮大な構想に感化され、夜半が魔法指南役となる流れは、本作最大のシリアスな見せ場だろう。ブリュンヒルドが不在なだけで、物語の色合いがここまで変わるのかと驚かされる。

 それでも結局、物語の核にあるのはブリュンヒルドと夜半の関係だ。奇妙な縁で結ばれた二人は、これからも中身のないようでどこか意味深な会話を重ねながら、騒がしく旅を続けていくのだろう。 

★★★★★★★☆☆☆7/10

古き良き懐かしい「あはれ」な作品でした。

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