あらすじ
一人の想いが誰かを動かし、その想いがさらに別の誰かへと伝播していく。
繊細に組み上げられた感情のドミノが辿り着く先にあるのは、七人の想いが交差する“七角関係”。
そのすべての起点となったのが、主人公・天宮司だ。政治家の息子である司は、明晰な頭脳と圧倒的な行動力で、この複雑な連鎖を成立させていく。しかし、その原動力はただ一つ。春野晴乃の幸せのためだった。
「恋とは失敗」という信念を掲げる司は、入学式で晴乃に一目惚れしてしまう。恋を否定する理性と、抑えきれない感情。その矛盾を抱えながら、彼は彼女を幸せにするための壮大な“七角計画”を練り上げる。
誰かが誰かを想い、その想いがまた別の誰かへと手渡されていく。七人七色の恋がオムニバス形式で描かれ、やがて七角形の人間関係は大きな連鎖となって収束する。
交差する想いの先に待つ結末とは――。
精緻に絡み合う青春群像劇が、いま動き出す。
心を動かされる美しい文章の数々
キャラごとの恋の定義があなたにとっての恋を考えさせる
こんな人におすすめ!
☑キャラクターの成長や変化が醍醐味の青春群像劇が好き!
☑唸らせる文章やセリフに出会いたい!
☑勉強や仕事の邪魔になる恋に否定的だった人!
感想(ネタバレあり)
「恋とは失敗だ」と考えながらも、好きな人が幸せになるために綿密な調査を重ね、穴のない計画を立て、インフルエンサーやアイドルまで巻き込んでいく。不器用なのに全力な司がとにかくかっこいい。
司の魅力が際立つのは、恋を否定する人間の描写の解像度が高いからだ。理性で恋を切り捨てようとする思考が丁寧に描かれているからこそ、好きな人のために動いてしまう姿とのギャップが強く効く。理想に向かうための理性が、恋心から生まれる妄想に侵食されていく葛藤も繊細だ。恋を嫌悪しながらも、どこかで楽しんでしまっている高校生らしさも愛おしい。「僕の五感は今や彼女のためのアンテナだ」という一文は、恋する人間の状態をあまりにも的確に言い表していて、思わず語録に加えたくなった。
物語は、恋愛を毛嫌いする司が晴乃のために壮大な計画を立て、それに巻き込まれる人物たちのエピソードがオムニバス形式で描かれる。それぞれが持つ“恋の定義”にキャラクター性がにじみ出ていて面白い。
中でも虎太郎の定義が一番心に残った。虎太郎は恋を「憧れ」と定義する。過去の出来事から八方美人になってしまった自分に悩み、揺るがない芯を持つ一条冷花に惹かれる。しかし、冷花や晴乃などと関わる中で、その考えは少しずつ変化していく。
「変わりたいんだよ、誰だって。誰かのためとかじゃなくて。イヤな自分のままでいたくない。自分の足りないところを補いたい。だけど変わりたくないって自分もいるんだ。俺も冷花も、たぶん、そのせめぎあいの中で生きてる」
「それを変わりたいって方向に突き動かすのが――恋なんじゃねえのかな」
このセリフのページで、思わず手が止まった。何度も読み返した。憧れの人に近づきたいから変わりたい。でも今の自分も捨てきれない。虎太郎だからこそ辿り着けた答えであり、多くの人の胸を打つ言葉だと思う。
虎太郎と冷花のやり取りの最後で、冷花が涙を流すのだが、「俺の背中に張り付いたシャツに、別の温度が流れた気がした」という文もお洒落。
複数の視点で進む物語が精緻に組み上げられ、ラストではドミノが倒れるように人間関係が連鎖し、散らばっていた線が一本に収束する。その瞬間、胸の奥がすっと軽くなった。
エピローグでは、さらに関係が拗れていきそうな予感もあり、七角計画が終わっても、より複雑な恋が待っていそうだ。続きがあるならぜひ読みたい。
総合評価
★★★★★★★★★☆ 9/10
文章、構造、文章、結末、文章全てが良かったです。恋の資本主義って言葉も好き。
私にとっての恋ですか?
私にとって、恋は渾沌の隷也 。


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