あらすじ
どんなに困難な営業ノルマも鳥井は必ず達成したが虚しくなるだけだった。営業が自分の天職だと思っても何も満たされることはなかった。何をやっても満たされないから仕事だけを続けていた。
夜の11時に顧客からアポイントメントが申し込まれ、鳥井は顧客の自宅まで向かう。突飛な時間の申し出でありながらも緊急性があると考え訪ねたがインターホン越しに門前払いをされる。不信感を抱きながらも持ち前の営業力で自宅に上がらせてもらうと、そこは殺人現場だった。
鳥井は気絶させられ、目が覚めると2人の殺し屋の前で体を縛られていた。死を間近で感じ恐怖した中、必死に頭を回転させた。
「ここで私を殺したら、あなたは必ず後悔します」
死と隣り合わせの商談が始まった。
殺人現場で自分を売り込むサイコパス営業マン
空虚な心を満たすのは殺人の営業
こんな人におすすめ!
☑探偵でもなく刑事でもなく営業マンのミステリーに興味がある人!
☑営業の仕事に興味がある人!
☑江戸川乱歩賞を受賞した話題作が気になっている人!
感想(ネタバレあり)
野宮有『殺し屋の営業術』はミステリー作品であり、江戸川乱歩賞を受賞したことからも、その完成度の高さがうかがえる。しかし本作の魅力は、巧妙なトリック以上に、そこへ至るまでの過程の描写にあると感じた。その最大の理由は、主人公の鳥井が探偵や刑事ではなく、ごく普通の営業マンである点だ。
鳥井は裏社会に放り込まれながらも、武器や知識ではなく、営業マンとして培ってきたスキルを使って生き延びようとする。特に印象に残ったのは、笹塚邸での場面である。営業マンが殺人現場に立ち会い、しかも相手が殺し屋であるという異常な状況に、一気に物語へ引き込まれた。命を握られる立場でありながらも、相手を「クライアント」として捉え、冷静にニーズを分析し、商談を進めていく姿は非常にスリリングだった。日常的な営業活動の延長線上に、命を懸けた交渉が存在しているという構図が、この作品ならではの面白さを生み出している。
物語の序盤からテンポが非常に速く、まだ五十ページほどしか進んでいない段階で、これほど盛り上がってしまってよいのかと不安になるほどだった。しかしその勢いは最後まで失われることなく、読者を物語の世界に引き込み続ける。営業という一見地味な仕事が、裏社会ではこれほど強力な武器になり得るのだという発見も新鮮だった。
もちろん、終盤で明かされるトリックも見事である。鴎木を出し抜く鳥井の策略は、読者の予想を良い意味で裏切るものだった。その手法は営業という仕事を深く理解しているからこそ思いつくものであり、主人公の職業設定が物語に必然性を与えていると感じた。普段通りの営業トークで相手を追い詰めていく場面には、静かな不気味さが漂い、強い印象を残した。
鳥井の異常性、卓越した営業スキル、そして裏社会という舞台設定が高いレベルで組み合わさることで、『殺し屋の営業術』は単なるミステリーにとどまらない、非常に完成度の高いエンターテインメント作品になっている。ぜひ、鳥井という人物の物語を、今後も読み続けてみたいと思った。
総合評価
★★★★★★★★☆☆ 8/10
スピード感と手に汗握る展開に最後まで楽しむことができる。元々異常な鳥井がさらに異常になっていく様子も面白い。



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