「書くこと」の哲学 ことばの再履修

教養

 私はこの本を読んで、答えのない文章の海にもっと深く飛び込みたくなった。

 本書は、文章を書くための明確なメソッドや即効性のある解決策を提示する本ではない。
 「こういうやり方や考え方、読み方、書き方がある。あとは自分で考えて試してごらん」と、そっと背中を押すような語り口だ。書くことに対して、何が正しくて何が間違っているのかを断定しない。むしろ、冒頭で「重要だ」と語られたことが、終盤では「別に何でもいい」と揺らぐ場面すらある。

 しかし、その曖昧さこそが本書の核心だと思う。正解がないからこそ、多くの文章に触れ、書き、感じ、自分なりの「良さ」を考え続けなければならない。書くことは技術ではなく、思考そのもの――まさしく哲学なのだ。

 以下、特に印象に残った点を挙げたい。

反射神経とスローライティング

 レビュアーとして作者が最も重視する能力が「反射神経」である点には強く共感した。私自身も、読み終えた直後の衝動をどう言葉にするかを大切にしているし、作品の「旬」を逃したくないと思っている。

 私が実践している脊髄反射的な感想文には、意識していなかった効用があった。それは、回数を重ねることで表現の精度と強度が上がっていくということだ。同じような言葉が浮かんでは消え、「もっと違う言い方はないか」と探す。その積み重ねが、自分らしい文章を形づくる訓練になっていた。

 一方で、反射神経とは対極にあるのがスローライティングだ。これは一文一文を吟味し、順序や構成を考えながら書く行為であり、必然的にスローリーディングも伴う。最初は新しい技法のように感じたが、よく考えればブログで感想を書く行為そのものだった。
Xは反射、ブログはスロー。今まで無意識に行っていた書くプロセスを言語化できたことで、自分の文章が変わっていく予感がした。

短文と長文

 文章術の本は「短く」「簡潔に」を推奨することが多い。私もそれが良い文章だと思っていた。確かに短文は読みやすく、誤解も生みにくい。

 しかし、短文=名文ではない。夏目漱石や太宰治などの文豪の文章は長く、癖があり、決してわかりやすいとは言えないが、強い魅力がある文もある。
 文章を切り詰めていくほど画一的になり、自分の文章ではなくなっていく。逆に一文を長くすればするほど、他者との差異が生まれ、癖や個性が表に出る。そうやって、自分なりの文章を見つけていくのかもしれない。

まとめ

 Aの話をしていたはずが、いつの間にか正反対のBの話になっている。そして、どちらが正しいのかは示されない。終わりのない文章論が頭の中で渦を巻く。タイトル通り、これは哲学の本だ。

 私が考える「良い文章」とは、人を動かす文章である。
 感動や笑いで心を動かす小説、行動を変えるビジネス書、魅力を伝えるレビュー。形は違っても、人に何かを残す文章を書けるようになりたい。
 この本は、そのための答えではなく、考え続ける場所を与えてくれた。

書くことに行き詰っている人、自分らしい文章を書きたい人におすすめ

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